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りっしゅんのたまご
立春の卵
中谷 宇吉郎
「世界」1947(昭和22)年4月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,450 字 · 17 页
世界中の人間が、何百年という長い間、すぐ眼の前にある現象を見逃していたということが分ったのは、それこそ大発見である。
しかしそれにしても、余りにことがらが妙である。どうして世界中の人間がそういう誤解に陥っていたか、その点は大いに吟味してみる必要がある。問題は巧く中心をとればというが、角度にして一度以内というのは恐ろしく小さい角度であって、そういう範囲内で卵を垂直に立てることが非常に困難なのである。その程度の精度で卵の傾きを調整するには、十分の一粍くらいの微細調整が必要である。それを人間の手でやるには、よほど繊細な神経が要ることになる。実は学校へ卵をもって行って、皆の前で立てて、一つ試験をしてみようと思った時は、なかなか巧く行かなかった。夜落著いて机に向っていて、少し退屈した時などにやれば、わりに簡単に立つのである。
卵を立てるには、静かなところで、振動などのない台を選び、ゆっくり落ち著いて、五分や十分くらいはもちろんかけるつもりで、静かに何遍も調整をくり返す必要がある。そういうことは、卵は立たないものという想定の下ではほとんど不可能であり、事実やってみた人もなかったのであろう。