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りゅうたんだん
竜潭譚
泉 鏡花
「文芸倶楽部」1896(明治29)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,899 字 · 30 页
垂玉の乳房ただ淡雪のごとく含むと舌にきえて触るるものなく、すずしき唾のみぞあふれいでたる。
軽く背をさすられて、われ現になる時、屋の棟、天井の上と覚し、凄まじき音してしばらくは鳴りも止まず。ここにつむじ風吹くと柱動く恐しさに、わななき取つくを抱きしめつつ、
「あれ、お客があるんだから、もう今夜は堪忍しておくれよ、いけません。」
とキとのたまえば、やがてぞ静まりける。
「恐くはないよ。鼠だもの。」
とある、さりげなきも、われはなおその響のうちにものの叫びたる声せしが耳に残りてふるえたり。
うつくしき人はなかばのりいでたまいて、とある蒔絵ものの手箱のなかより、一口の守刀を取出しつつ鞘ながら引そばめ、雄々しき声にて、
「何が来てももう恐くはない、安心してお寝よ。」とのたまう、たのもしき状よと思いてひたとその胸にわが顔をつけたるが、ふと眼をさましぬ。残燈暗く床柱の黒うつややかにひかるあたり薄き紫の色籠めて、香の薫残りたり。枕をはずして顔をあげつ。顔に顔をもたせてゆるく閉たまいたる眼の睫毛かぞうるばかり、すやすやと寝入りていたまいぬ。ものいわむとおもう心おくれて、しばし瞻りしが、淋しさにたえねばひそかにその唇に指さきをふれてみぬ。