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りゅうたんだん

竜潭譚

泉 鏡花

「文芸倶楽部」1896(明治29)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,899 字 · 30 页

青空文庫

三味線弾きて折々わが門に来るもの、溝川に鰌を捕うるもの、附木、草履など鬻ぎに来るものだちは、皆この児どもが母なり、父なり、祖母などなり。さるものとはともに遊ぶな、とわが友は常に戒めつ。さるに町方の者としいえば、かたいなる児ども尊び敬いて、しばらくもともに遊ばんことを希うや、親しく、優しく勉めてすなれど、不断は此方より遠ざかりしが、その時は先にあまり淋しくて、友欲しき念の堪えがたかりしその心のまだ失せざると、恐しかりしあとの楽しきとに、われは拒まずして頷きぬ。

児どもはさざめき喜びたりき。さてまたかくれあそびを繰返すとて、拳してさがすものを定めしに、われその任にあたりたり。面を蔽えというままにしつ。ひッそとなりて、堂の裏崖をさかさに落つる滝の音どうどうと松杉の梢ゆう風に鳴り渡る。かすかに、

「もう可いよ、もう可いよ。」

と呼ぶ声、谺に響けり。眼をあくればあたり静まり返りて、たそがれの色また一際襲い来れり。大なる樹のすくすくとならべるが朦朧としてうすぐらきなかに隠れむとす。

声したる方をと思う処には誰も居らず。ここかしこさがしたれど人らしきものあらざりき。