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りゅうたんだん

竜潭譚

泉 鏡花

「文芸倶楽部」1896(明治29)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,899 字 · 30 页

青空文庫

青き旗、白き旗、二三本その前に立ちて、うしろはただちに山の裾なる雑樹斜めに生いて、社の上を蔽いたる、その下のおぐらき処、孔のごとき空地なるをソとめくばせしき。瞳は水のしたたるばかり斜にわが顔を見て動けるほどに、あきらかにその心ぞ読まれたる。

さればいささかもためらわで、つかつかと社の裏をのぞき込む、鼻うつばかり冷たき風あり。落葉、朽葉堆く水くさき土のにおいしたるのみ、人の気勢もせで、頸もとの冷かなるに、と胸をつきて見返りたる、またたくまと思うかの女はハヤ見えざりき。いずかたにか去りけむ、暗くなりたり。

身の毛よだちて、思わず呀と叫びぬ。

人顔のさだかならぬ時、暗き隅に行くべからず、たそがれの片隅には、怪しきもの居て人を惑わすと、姉上の教えしことあり。

われは茫然として眼をりぬ。足ふるいたれば動きもならず、固くなりて立ちすくみたる、左手に坂あり。穴のごとく、その底よりは風の吹き出づると思う黒闇々たる坂下より、ものののぼるようなれば、ここにあらば捕えられむと恐しく、とこうの思慮もなさで社の裏の狭きなかににげ入りつ。眼を塞ぎ、呼吸をころしてひそみたるに、四足のものの歩むけはいして、社の前を横ぎりたり。