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どうわのしてきかち
童話の詩的価値
小川 未明
「金の輪」南北社、1919(大正8)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,579 字 · 6 页
悩ましい風景が眼に見えるのでありました。
曇った大空の下を湿っぽい風が吹いています。梅雨頃の気分が心辺に漂っていて、白い絹糸のもつれたような雲が藁屋の頂を流れて行きます。青梅の小さな実が柔らかな葉蔭から覗いている。傍には壊れかかった土塀があって、白壁の倉が現れています。こんな景色が、いつでも私の眼に見えるのです。
もう一つは、按摩の笛の音を聞くたびに、眼に浮かんで来る、子供の時分に行った未開の温泉場の幽暗な景色であります。昼間でも行燈が室の中に置いてありました。知らぬ男が肌を脱いで将棋をさしていました。
唄の声、笛の音が、私の心をこんなに遠いもはや其処にもない幽暗な世界に導き、うす青い幻想の世界に誘います。
ラフカディオ=ハーンが「日まわり」の花を見てウエールスにあった、少年時代のある日のことを記憶から呼び起こして、其れをなつかしく思ったことが、其の作に書いてありました。私達が、何等かの幻想や、連想によって、既に少年の時代に失われた世界をもう一度取り返すことが出来たら、どんなに仕合わせでありましょう。而して、もし其れによって、更に少年を楽しませることが出来たらどんなに私達は、芸術の誇りを感ずるでありましょう。