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はこねのやま

箱根の山

田中 英光

「文藝春秋 別冊2」1946(昭和21)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,963 字 · 33 页

青空文庫

を馬鹿の一つ覚えのように繰返して歌っていれば、前後左右から頭を圧せられるような高い峰々の輝きに、自分を豆粒のように感ぜられるにも拘わらず、自然を征服したと人間が自惚れた時の、あの愚かな感動が捲き上がって来るのだった。

そこでバカな親父は子供にこの感動を伝えてやりたいと思い、「おイ一郎、お父さん、この歌を教えてやろうか」、「ウン」と子供は親父の下手糞な歌にあまり興味のないらしい生返事をすると、それよりも道端の雑草に心を惹かれるらしく、私の手を振り切って、道端に蹲み、とても珍重すべきものに見えるらしい、黄色い金鳳花やら、枯れ薄の穂先を毟ってくる。私も幼い頃にはそうであったのに違いないが、子供の落着きのないのに腹を立て、「こら一郎。そんなにきょろきょろしていたら、とてもあのお山の上まで行かれやしないよ。男は一つの事に目標を樹てたら傍目を振らずに突進するんだ。今からそんな道草を食っていたら、草臥れてしまって、とてもお山の上まで登れやしないよ」これがいちばん大切な事だとばかり、邪慳にその手をぐいぐい引っ張る。

一郎は毟った花を大切そうに右手に持ち、素直に、「ウン」