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はこねのやま

箱根の山

田中 英光

「文藝春秋 別冊2」1946(昭和21)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,963 字 · 33 页

青空文庫

とやったが、節も文句も出鱈目で、僅に自信のあるのは前の三句に過ぎない。それでも、聞手が子供と山だけなのを好い事にして、繰返し、「箱根の山は天下の険、函谷関もものならず」と呶鳴ったが、それでも私には十分な感動があった。

後でちゃんとしたこの歌詞を調べてみたら、「箱根の山は、天下の険、函谷関も物ならず、万丈の山、千仭の谷、前に聳え後に支う。雲は山をめぐり、霧は谷をとざす、昼猶闇き杉の並木、羊腸の小径は苔滑か、一夫関に当るや万夫も開くなし、天下に旅する剛毅の武夫、大刀腰に足駄がけ、八里の岩ね踏み鳴す、斯くこそありしか往時の武夫」と言う長過ぎる歌で、文句はもう古臭い感じだが、この歌につき纒う一種、清新な感じは、この作曲が、鬼才滝廉太郎によって為されたからだろうと思う。この歌なり荒城の月なりが、いつもその後の流行歌などより、ちょっとした清新な味を持ち続けているのは、鬼才と凡才との一寸の差を語るものだと思う。その一寸の差が、「天才は常に新し」と言われる所以でもあろうか。それにしても、私は幼い子供の手を曳き、冬の日の暖く降りそそぐ箱根街道を歩きながら、「箱根の山は天下の険」