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はこねあたみバスきこう

箱根熱海バス紀行

寺田 寅彦

「短歌研究」1935(昭和10)年6月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,181 字 · 11 页

青空文庫

音楽家はボーイを読んで勘定を命じながら内かくしから紙入れを捜ってその中から紙幣のたばを引出した。十円札が二、三十枚もありそうである。それを眼の高さに三十センチの処まで持って来て、さて器用な手つきをしてぱらぱらと数えて見せた。自分達は半ば羨ましく半ば感心してそれを眺めたことであった。食堂のガラス窓越しに見える水辺の芝生に大名行列の一団が弁当をつかっているのが見える。揃いの水色の衣装に粗製の奴かつらを冠った伴奴の連中が車座にあぐらをかいてしきりに折詰をあさっている。巻煙草を吹かしているのもあれば、かつらを気にして何遍も抜いたり冠ったりしているのもある。

熱海行のバスが出るというので乗ってみることにした。峠へ上って行く途中の新道からの湖上の眺めは誠に女車掌の説明のごとく又なく美しいものである。昔の東海道の杉並木の名残が、蛇行する自動車道路を直線的に切っているのが面白い。平野ではこれと反対に旧道の曲線を新道の直線で切っている場合が多いのである。人間の足と自動車とでは器械がちがうだけに「道路の科学」もまた違った解答を与えるのであろう。

航空気象観測所と無線電信局とがまだ霜枯れの山上に相対立して航空時代の関守の役をつとめている。