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はこねあたみバスきこう

箱根熱海バス紀行

寺田 寅彦

「短歌研究」1935(昭和10)年6月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,181 字 · 11 页

青空文庫

一昼夜に五、六回の噴出を、色々な器械を使って観測するのであるが、一回の噴出に約二時間もかかる上に噴出前の準備があり噴出後の始末もあるので、夜もおちおち安眠は出来なかった。自然の不可思議な機構を捜る喜びと、本能の欲求する睡眠を抑制するつらさとが渾然と融和した形になって当時の記憶を彩っているようである。

その頃の熱海行きは、国府津まで汽車で行って国府津から小田原まで電車、小田原からは人車鉄道という珍しい交通機関によるのであった。立ったら頭の閊える箱の中に数人の客をのせたのを二、三人の人間が後押しして曲折の多い山坂を登る。登るときは牛のようにのろい代りに、下り坂は奔馬のごとくスキーのごとく早いので、二度に一度は船暈のような脳貧血症状を起こしたものである。やっと熱海の宿に着いて暈の治りかけた頃にあの塩湯に入るとまたもう一遍軽い嘔気を催したように記憶している。

無闇に井戸を掘って熱泉を噴出させたために規則正しい大湯の週期的噴泉に著しい異状を来したというので県庁の命令で附近の新しい噴泉井戸を埋めることになった。自分は官命によってその埋井工事を見学に行ったが、それは実に珍しい見ものであった。