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そこつひょうばんき

粗忽評判記

山本 周五郎

「富士」大日本雄辯會講談社、1929(昭和14)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,942 字 · 28 页

青空文庫

これまで飲むというほど飲んだことがないのに、身の立たぬまで呷ったのだから無理もない話である。水ばかり飲んで唸っていたが、それでも猶予三日の最後の日には蒼白い顔でふらふらしながら御前へ出た。いきなり頭から呶鳴りつけられるものと覚悟していた久之進は、「どうだ、具合は好いか」という優しい言葉を聞いて驚いた。「はっ、――」「苦しいならまだ出仕するには及ばないぞ、顔色も本当ではないようだ、無理をせずともよいだけ休んでおれ」

まったく意外な結果である。そっと面をあげて見ると、明敬の眉間が曇っている、額に深く皺を刻んでどうやら憂悶に苦しんでいるようすであった。かつて例のないことなので久之進は何か間違いがあったなと直感した。

「恐れながら、なんぞ御不快なことでもございましたか、御気色が勝れぬように拝見仕りまするが……もしやせんじつ久之進めの」

「いや心配するな、そうではない」明敬はそう云って立上った、「庭を歩く、苦しくなければ供をせい」「お供仕ります」久之進もすぐに座を立った。

庭へ下りた明敬は、足を速めるかと思うと緩め、立停るかと見ればすぐまた歩きだすというふうで、心の屈託がそのままかたちに現われているようすだった。