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そこつひょうばんき

粗忽評判記

山本 周五郎

「富士」大日本雄辯會講談社、1929(昭和14)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,942 字 · 28 页

青空文庫

「……それが吹上侯でございましたな」

「あの田舎者め」明敬は宙を睨めつけた、「余が詫びる暇もなく、起上るといきなり無礼のなんのと怒りだし、はては先日の矢表のことまで云いだして、あれは敵わぬから逃げたのであろうなどと云いおった、詫びようと思ってもそうなれば売り喧嘩に買い喧嘩だ、――壬生の家中にはおんなわらべと立会うような腰抜は一人もおらぬ、こう云ってやった」

「……それだけでございますか」

「まあ、そんなものだ」眩しそうな眼をしたようすでは、どうもそんな温和しいことではなかったらしい、――明敬は急いで話題を変えた、「それはそれでよい、肝心なのはそんな些細なことで、日ごろの友誼を忘れた出雲守の態度だ、余はきっぱり交を断つと云ってやったが、今にして思えばあのとき兼光を譲り取らなくてよいことをした、もし兼光がこのほうへ来ていたら、昨日はもっと雑言を吐かれたに違いない」

「お交りを断つと、お上から仰せられたのですか」

「余が云わなければ向うが申したであろう、あんな腹黒いやつはない」

向うが云うだろうと想像して腹黒いというのは無理である。しかしいかにも性急な明敬らしい話であった。