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そこつひょうばんき

粗忽評判記

山本 周五郎

「富士」大日本雄辯會講談社、1929(昭和14)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,942 字 · 28 页

青空文庫

「負けた、このほうの負けだ壱岐侯」信継は震える声で云った、「信継も仲直りがしたかったのだ、殿中でなんど言葉をかけようと思ったかしれないぞ、だがやはりできなかった。嬉しかったよ壱岐侯、あのおりのことは許してくれ、よく先に折れてくれた、嬉しいぞ、嬉しいぞ」

「……出雲侯」明敬もひしと手を握り返した。信継はしかし相手に言葉を与えず、「さすがに一年の長だけある、仲違いをしていなくとも、出世をした者の門は訪ねにくいものだ、ことにあの不和のなかでなおさらであろう、それだけに嬉しかった、誰に祝われるよりやはり壱岐侯に祝ってもらいたかったのだ」

「よい、よい、もうよい」明敬の声はにわかにしめってきた。「会えばいいんだ、よく来てくれた、さあ、席へ行こう、席へ……」ほとんど手を執合ったまま二人は奥へ入った。客間へ通っても、しばらく二人とも同じ感動の言葉を繰返していたが、やがて信継は小姓に持たせて来た錦の袋を取って、「さ、土産だ、受けていただこう」と差出した。なにが入っているかは勿論ひと眼で分る。

「兼光だな」

「御執心の兼光だ、今日の招きの返礼に持って来た」

「そんなに……」