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こうもうけいせい

紅毛傾城

小栗 虫太郎

「新青年」1935(昭和10)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,403 字 · 50 页

青空文庫

そこへ、フローラは不審気な顔で、紅琴の耳に口を寄せた。

「でも、ほんとうでしょうか、奥方様。ほんとうに、黄金郷の所在を御存じなのでございますか」

「知らないで、なんとしようぞ。フローラ、そもじに、その所在を明らかにするについては、陸では聴く耳があるかもしれませぬ。私たち二人は、沖に出て話すことにしましょう」

と先刻は、鉄を断つ勢いを示したにもかかわらず、その紅琴が、なぜかもの淋しく微笑んで、一艘の小船を仕立てさせた。

次第に、フローラの体には、塩気が粘りはじめて、岩城の頂きが、遠く亡霊のようにぼんやりと見えた。うねりは緩く大きく、船はすでに、二カイリの沖合に出ていた。

するとその時、意外にも、紅琴の瞼がぬれているのを見て、フローラは驚いた。

「おや、奥方さま、なぜにお泣きでございますの。御兄弟お二人を失ったとはいえ、ラショワ島の御主、黄金郷の女王となったあなたさまに、涙は不吉でございますのよ」

「いえいえフローラ、私たちは、いまこそ島に別れを告げねばならぬのです。おお、あの岩城、横蔵、慈悲太郎――これからは、二人の塚を訪れる者とてないであろう。したが、そもじは気づかぬであろうけれど、あの二人がこの世を去ったとすれば、当然火器を作って、土民たちを従えるに足る者が、島にはいのうなったはずじゃ。