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こうもうけいせい
紅毛傾城
小栗 虫太郎
「新青年」1935(昭和10)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,403 字 · 50 页
どうじゃ、わかったであろうな、それはラショワ島を暗示する、黄金郷の所在ではなく、そもじの FLORA と、母の DORA の名を連らねたもの。それゆえ、そもじの父はステツレルではなく、ベーリング海峡の発見者、ヴィツス・ベーリングなのじゃ。愛しのフローラよ、そもじの悩みは、貴い涙となって、父の顔の上に落ちまするぞ」
フローラは、無限の感動をこめて、じっと紅琴の顔を見つめている。もう、薄っすらとにじんだ涙にも流れ落ちる気力はなかった。
紅琴は、彼女の首をひしと抱いて、子供のように胸の上で揺すぶった。
「私は、そもじの過去を、はじめて会うたときに、それと悟ったほど……。その、燃えるような緑の髪も、惨苦と迫害の標章でのうて、なんであろう。そもじは、ネルチンスクの銅山にまで流れていき、髪にそのような、中毒が現われるまで、つらい勤めを続けたのであろう。だが、それはさておいて、今こそ、そもじに横蔵慈悲太郎を害めた、下手人の名を告げましょうぞ。
そもじが見た父とやらは、真実の腕ではなく、実は、格ガラスに現われる、性悪な気紛れなのじゃ。そもじは、砒石の蒸気を防ぐために、硫気を用いたのであろうけれど、それが市松のくぼみに溜まった水に溶け、黝んだことゆえ、まっすぐなものも、かえって反りかえって見えたのじゃ。