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ぜつえんたい
絶縁体
豊島 与志雄
「世界」1952(昭和27)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,752 字 · 38 页
そうなるともう騎虎の勢いで、市木さんはなお何度も猫を叩きつけ、打ち殺してしまったのである。
市木さんの話は冷淡な調子だったが、底に熱いものが籠っていた。
「ひとの様子を、じっと覗き窺うなど、以ての外の根性です。成敗されても仕方ないことでしょう。」
前に、竹垣のことについて、見るのがいけない、眼を向けるのがいけない、と市木さんが言ったのを、私はふと思い出したのだった。そして猫のことも、やや合点がいった。
猫の死体を、市木さんは庭の片隅に埋めた。
それが、当分の間、私は薄気味わるくて、市木さんの庭へ行くことをやめた。
猫や犬の死体を葬ってくれる寺がある筈なのに、市木さんはなぜ庭の隅に猫の死体を埋めたのだろう。まさか埋葬料を倹約したわけではなかったろう。
というのは、私の妻がへんな噂を聞き込んで来たのである。市木さんの家には、黄金の延棒が秘蔵されているというのだった。
市木さんはいつもみすぼらしい身扮をしていたし、子供たちも実に粗末な服装をしていたし、生活も至って質素だったのに、金の延棒があるという噂が、まことしやかに伝えられたということには、何か意味があるようだった。