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ぜつえんたい
絶縁体
豊島 与志雄
「世界」1952(昭和27)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,752 字 · 38 页
娘さんがほしがって貰って来たものだとか、私は聞いていた。市木さんの足元に今のびてる猫は、私にも見覚えのあるその一匹だった。
市木さんの説明によると、その猫は、いつの頃からか野良猫のような性質に変った。二日も三日もいなくなったかと思うと、こそこそと家にはいって来て、飯を食いちらして、また出て行った。それだけならよいが、あちこちに尿をひっかけて、駆けだして逃げて行った。市木さんの姿を見ると、すぐに逃げだした。炬燵にも寄りつかず、寒空のもとにどこをうろついてるのか分らなかった。一番いけないのは、家にはいって来て、人の気配をそっと窺ってることだった。襖の陰とか、柱の陰とか、廊下の曲り角などに、じっと蹲まり、顔だけ出して、こっちの様子を窺いすましていた。まるでスパイ根性だった。
一匹の猫は温良な性質だったが、一匹の方だけ、どうしてそうなったのか。市木さんはほんとに腹を立てた。折檻してやろうと思ったが、なかなか捕まらなかった。ようやく縁側の隅で捕まえると、手を引っ掻き噛みついて暴れた。それを市木さんは板の間に叩きつけてやった。力がはいりすぎて、猫はぐったりとなった。