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ぜつえんたい

絶縁体

豊島 与志雄

「世界」1952(昭和27)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,752 字 · 38 页

青空文庫

「金銭の奴隷が、とうとう尻尾を出しましたな。あれだからわたしはああいう連中が嫌いですよ。」

私は探るように言ってみた。

「永代供養料の金額が、ちと多すぎるとでも、思われたのではありますまいか。」

「いや、多すぎはしません。遺骨二つをわたし自身から切り離すための、その代償ですからな。」

私はなにか冷いものを身に浴びた気がした。そしてなお市木さんの酒の相手になりながら、前に坐ってるその長髪の老人は、果して、気が少し変なひとか、或はたいへん賢明なひとか、どちらだろうかと疑った。いずれにしても、独自な精神のひとには違いなかった。

酔ってくると、市木さんは尺八を持ち出してきて、追分節を吹いて聞かせた。いや、私に聞かせるというよりも寧ろ、自分でその音色に聴き入ってるがようだった。

三

市木さんの日常は次第に、孤独な静穏なものに立ち戻っていった。買物や其他の用達しに、いつもの姿で飄々乎と出歩き、それ以外はたいてい家に引き籠って、ひっそりとしていた。

けれども、弘子さんの死去によって、淋しい影が深くなったのも事実だった。何よりもやはり、人手が一つ足りなくなった。