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ぜつえんたい

絶縁体

豊島 与志雄

「世界」1952(昭和27)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,752 字 · 38 页

青空文庫

飯をたくことから煮物まで炊事一切、また掃除や洗濯など、市木さんは自分でやっていたが、弘子さんがおれば相当な手伝いになっただろうが、それが無くなってしまったのである。それから精神的な打撃も深い筈だった。然し、市木さんはそれらのことをよく持ち耐えて、平然としてるようだった。

夏になって、学校も休暇になると、男の子の信吾が、庭を掃いたり草を※(「てへん+劣」、第3水準1-84-77)ったりする姿も見えた。これも姉さんと同じく、痩せがたのおとなしい子で、顔の表情がひどく少なかった。表へ出て他の子供たちと遊ぶことも殆んどなく、家の中で静かに何かしていた。

晩になると、時折、読書してるらしい市木さんの高い声が、その二階から聞えることがあった。或る時、ちょっと注意を惹かれるふしがあって、私は例の竹垣を跨ぎ越し、市木さんの庭にはいってゆき、二階の下に佇んだ。市木さんは高い声で読んでいた。

聞いているうちに、私にもすぐに分った。それは、私が書いた童話だったのである。

場所はどこでもよいが、まあ西洋のつもりである。その或る所に、むかし、羊飼いの少年がいて、石ころでも何でも金貨にしてしまう不思議な皮袋を手に入れ、それを持って、都を見物に出かけました。