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ぜつえんたい
絶縁体
豊島 与志雄
「世界」1952(昭和27)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,752 字 · 38 页
老人はびっくりして、そんな金貨があれば食事はどこでも出来ると言いました。それで、少年はその老人を誘い、また腹のすいてる人たちをたくさん誘って、ある小さな料理屋へ行き、みんなで楽しく食事をしました……。
その少年の名前がエキモスというので、私にはすぐ自分の作品だと分った。長い童話の一節で、だいたい右のような話だった。市木さんはそれを信吾に読んできかせてるに違いなかった。親子というよりは寧ろ祖父と孫とのような二人が、電燈の明りの下に寄り添ってる情景が、私の頭に映った。そしてふっと、立ち聞きしたのが悪かったという気持ちになり、足音をぬすんで家に帰った。
だが、その童話を私の作品だと市木さんが知らない筈はなかった。知っていて黙っていたのである。其後も、私は自分の童話については黙っていたが、市木さんの方からも何とも言い出さなかった。
この童話の件のような外的な事柄については、市木さんは別に隠し立てをするというわけではなかったろうが、ひどく物ぐさな無口だった。その代り、内心の考えを私に打明けることは多くなった。
或る夕方、市木さんは路傍の草原に腰を落ちつけ、両足を前方に投げ出して、夕陽を眺めていた。