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りょくいのおんな
緑衣の女
松本 泰
「秘密探偵雑誌」1923(大正12)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,168 字 · 25 页
夕暮が永かった割に、日が暮れると急に夜が更けたように、人通りが稀になった。泉原は鉄柵を鎖した雑貨店の角を曲りかけた時、
「モシ、モシ。」と背後から呼ぶ声をきいた。泉原は悸乎として振返ると、中折帽を冠った大男が、用ありげにツカ/\と寄ってきた。
三
「失礼だが、燐寸の持合せがあるなら貸してくれませんか。」男は泉原の顔をジロ/\と覗込みながら、幾分か声を和げていった。泉原はポケットを探って無言のまゝ相手に燐寸を渡した。見るとそれは最前食事をしていた時、彼の筋向うの卓子で新聞を読んでいた男であった。
「私は先刻料理店で貴方をお見かけしたと思いますが。」と泉原は恐る/\いった。
「その通りですよ。君はこの土地に初めてと見えますね。この辺は物騒でよく追剥が出没するですよ。昨夜も避暑にきている若いアメリカ人の被害があったです。君はこれから何処へ行こうとなさるのかね。」
「何処へゆくという目的はありません。私は日本人の画家で、先刻停車場へ着いた計りです。」
「そうらしいと思ったです。見たところ土曜から日曜にかけての休日を利用して海岸に保養に来たという様子もなし。