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ぬいこ

縫子

宮本 百合子

「新潮」1926(大正15)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,962 字 · 20 页

青空文庫

縫子は、灰をいじくりながら唇を歪めた。

「二三日頼みたいって云うんだけれど――どう? どうせお裁縫も間だしするから行ってあげなさいな」

縫子はつい先日、今泉の細君の義理のある家で手不足だというので頼まれ、十日もいやな思いをして手伝って来たばかりであった。

「また別なところじゃありませんか。――それにその皸で家にいたってお洗濯一つ出来ないんだもの。――」

「…………」

暫く黙って長火鉢に拭布をかけながら、やがてなみがいいことを思いついたというように云った。

「ああ本当に! 今度は山科さんに何と云われても永く借しちゃ置けない。――二十日に御法事があったもの。是非その日は帰ってもらわなくちゃならないから今日が――何日? もう十六日でしょう、ほんの僅だ、行って上げなさい」

行くとも行かぬとも返事をせず、秋日和を自分の体で堰いていくらか暗い鉄瓶のところをみつめているうちに、縫子は妙に情けない気持になってきた。当のない暮しという思いが身に徹えて感じられた。今度はここへ行く。またあそこへ行く。そうやっている自分に何ともいえず哀れっぽいものが感じられる。縫子は涙ぐんだ。