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わなにかかったひと
罠に掛った人
甲賀 三郎
「探偵」駿南社、1931(昭和6)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,112 字 · 21 页
私はあの吸血鬼のような玉島を殺して自殺する。お前一人なら、どうにかして生きる道を見出す事が出来るだろう。意気地のない亭主の事などは、永久にお前の記憶から抹殺して、生甲斐のある生き方をして呉れ」
こんな遺書を書き残して置こうかと思ったが、何だか余り月並な夫のする事と思ったし、それに見つかり方が早くて、玉島を殺す所を留められるような事になっても困るし、友木は妻には何にも知らさない事にした。
玉島の家は無人ではあったが、戸締りは中々厳重らしい。噂によると、夜の警戒は一層激しいと云う事であるから、どうして忍び込むかと云う事が問題だった。殺す方法は更に問題だった。友木には短刀は愚か、肥後守のような簡単な小刀さえなかった。そんなものを買う金は無論ない。もしそんな金があったら、仮令それが十銭であったにしろ、芋でも買って餓を凌ぎ、玉島を殺す事は明日の問題にしたに違いないのだ。友木は玉島を殺すべき兇器さえ持たない事を思うと、苦笑せざるを得なかった。
蝋燭は最後の燃えんとする努力をするように、パッと一瞬間明るくなると共に、見る見る焔が小さくなって、忽ち消て終った。
友木はのっそりと真暗な部屋を出た。