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うつくしいむら

美しい村

堀 辰雄

序曲「大阪朝日新聞」(「山からの手紙」の表題で。)1933(昭和8)年6月25日、美しい村「改造」1933(昭和8)年10月号、夏「文藝春秋」1933(昭和8)年10月号、暗い道「週刊朝日 第25巻第13号」1934(昭和9)年3月18日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,946 字 · 84 页

青空文庫

(何故そんなにその老医師が村の者から憎まれるようになったかは爺やの話だけではよく分からなかったけれど、私もまたそれを執拗に尋ねようとはしなかった。)――それ以来、老医師はその妻子だけを瑞西に帰してしまい、そうして今だにどういう気なのか頑固に一人きりで看護婦を相手に暮しているのだった。……私はそんな話をしている爺やの無表情な顔のなかに、嘗つて彼自身もその老外人に一種の敵意をもっていたらしいことが、一つの傷のように残っているのを私は認めた。それは村の者の愚かしさの印しであろうか、それともその老外人の頑な気質のためであろうか? ……そう言うような話を聞きながら、私は、自分があんなにも愛した彼の病院の裏側の野薔薇の生墻のことを何か切ないような気持になって思い出していた。

私はヴェランダの床板に腰かけたきり、爺やがまた何処からか羊歯を運んで来るまで、さまざまな物思いにふけりながら待っていた。それからまた爺やの羊歯を植えつけるのをしばらく見守っていた。しかし今度は黙ったままで。そうして私は老人の動かしている無気味に骨ばった手の甲を目で追っているうちに、ふいと「巨人の椅子」