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うつくしいむら

美しい村

堀 辰雄

序曲「大阪朝日新聞」(「山からの手紙」の表題で。)1933(昭和8)年6月25日、美しい村「改造」1933(昭和8)年10月号、夏「文藝春秋」1933(昭和8)年10月号、暗い道「週刊朝日 第25巻第13号」1934(昭和9)年3月18日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,946 字 · 84 页

青空文庫

のことを思い浮べた。――私は爺やが羊歯をすっかり植えおえるのを待とうとしないで爺やと別れた。

それから数分後に、私はその巨きな岩を目のあたりに見ることのできる、例の見棄てられたヴィラの庭のなかに自分自身を見出した。そのヴィラに昔住んでいた二人の老嬢のことについては爺やも私に何んにも知らせてくれなかった。「ああ、セエモオルさんですか」と言ったきりだった。何か知っていそうだったがもう忘れてしまったらしかった。そうしてただ不機嫌そうに黙っていた。「そうすると、それを知っているのはお前だけだがなあ……」と私は、いま私の下方に横わっている高原一帯を隔てて、私と向い合っている、遥か彼方の「巨人の椅子」を、あたかもそのあたりに見えない巨人の姿を探してでもいるかのような眼つきで、まじまじと見まもっていた。

だんだんに日が暮れだした。私のすぐ足許の、いつかその赤い屋根に交尾している小鳥たちを見出したヴィラは、もう人が住まっているらしく、窓がすっかり開け放たれて、橙色のカアテンの揺らいでいるのが見えた。ときおり御用聞きがその家のところまで自転車を重そうに押し上げてくるらしい音が私のところまで聞えて来た。