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うつくしいむら

美しい村

堀 辰雄

序曲「大阪朝日新聞」(「山からの手紙」の表題で。)1933(昭和8)年6月25日、美しい村「改造」1933(昭和8)年10月号、夏「文藝春秋」1933(昭和8)年10月号、暗い道「週刊朝日 第25巻第13号」1934(昭和9)年3月18日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,946 字 · 84 页

青空文庫

私の新しい部屋は、別館の二階の奥まったところで、南向きの窓があり、そしてその窓からは数本の大きな桜の幹ごしに向うの小高い水車の道に面しているいくつかのヴィラの裏側がちらちらと見えていた。そしてその窓のすぐ下を、私がそれらの少女たちと初めて出会ったところの、例の抜け道が、小さな坂になりながら、灌木のなかに細々と通っているのだった。……私は私のやりかけている仕事から気持をそらすまいとして、私とたった二人きりでその別館の中に暮らしだしているその未知の少女とは、わざと背中を向き合わせてばかりいた。その癖、私は私の窓のすぐ下を通っているその坂道を、毎朝、一定の時刻に、絵具箱をぶらさげながら、その少女が水車の道の方へと昇ってゆくのを見逃したことはなかった。丁度、午前中のその時刻の光線の具合で、木洩れ日がまるで地肌を豹の皮のように美しくしている、その小さな坂を、ややもすると滑りそうな足つきで昇ってゆくその背の高い、痩せぎすな後姿を見送りながら、その上の水車の道に出て、さて、それから彼女はどの小径をどう通って、どんな場所へ絵を描きに行くのだろうかと、そこいらの林のなかの小径が実にややこしく、私自身も初めてこの村へ来た当時は、何度も道に迷ってしまった位ではあったし、それにまたそんなことからして一人の少女と私との奇妙な近づき