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うつくしいむら
美しい村
堀 辰雄
序曲「大阪朝日新聞」(「山からの手紙」の表題で。)1933(昭和8)年6月25日、美しい村「改造」1933(昭和8)年10月号、夏「文藝春秋」1933(昭和8)年10月号、暗い道「週刊朝日 第25巻第13号」1934(昭和9)年3月18日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,946 字 · 84 页
が始まったりしたので、私は、絵を描く場所を捜しながらそんな見知らぬ小径をさまよっているらしい彼女のことを、何となく気づかわしく思っていた。
※(アステリズム、1-12-94)
しかし私は最初のうちはその少女を、唯、そんな風に私の窓からだの、或いは廊下などでひょっくり擦れちがいざま、目と目とを合わせないようにして、そっと偸み見ていたきりであった。そんな具合で、私は彼女の顔を、まだ一度も、まともに眺めたことがなく、それに私の見たときは、いつも静止していないで、しかもそれぞれに異った角度から光線を受けていたせいか、見る度毎に、その顔は変化していた。或る時は、そのやや真深かにかぶった黄いろい麦藁帽子の下から、その半陰影のなかにそれだけが顔の他の部分と一しょに溶け込もうとしないで、大きく見ひらかれた眼が、きらきらと輝いていた。またそんな帽子をかぶらずに、庭園の中などで顔いっぱいに強い光線を浴びながら、まぶしそうにその眼を半分閉ざしているおかげで、平生の特徴を半分失いながら、そしてその代りにその瞬間までちっとも目立たないでいた脣だけが苺のように鮮かに光りながら、ほとんど前のとは別の顔に変ってしまうこともあった。