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ぐんしゅう

群集

豊島 与志雄

「中央公論」1919(大正8)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,675 字 · 10 页

青空文庫

一部は歩道の上に身を避けた。歩道に溢れた者は遠くへ逃げてしまった。

善良な穏かな群集だった。「米価騰貴」に困難を感じているらしい顔や「不安」に襲われているらしい顔は、一つも見られなかった。

騎馬の兵士が去ると共に、私は其処の角を離れて、ガードをくぐって万世橋の方へ行った。橋の向うから「わーッ」という大勢の人声がした。後は静かになった。

万世橋のたもとには、橋で堰かれた一群の人々が居た。橋の上に多くの巡査と在郷軍人とが、提灯を手にして番をしながら通行を止めていた。

一人の商人体の男が群から進み出て、巡査に何やら小声で懇願しているらしかった。巡査は手を振って大きい声で云った。

「いかん、いかん、昌平橋の方から廻れ!」

男はすごすごと退いた。皆それを黙って見ていた。

暫くすると、橋の向うから七八人の者が駆けながら橋を渡って来た。巡査は何とも云わないで通さした。それを見て二三人の者がこちらから橋の上に進んでいった。私も急いでその後に随った。笹も咎めなかった。二十人ばかりの者は、橋を駆けて渡った。然しその後の者は、また巡査に堰き止められてしまった。

橋の向うは街灯が粗らで薄暗かった。