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ぐんしゅう

群集

豊島 与志雄

「中央公論」1919(大正8)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,675 字 · 10 页

青空文庫

その薄暗い中に群集が溢れていた。大勢の巡査が街路の真中に立っていた。騎馬の兵士が時々往ったり来たりした。遠く広小路の方まで、それらの群集と巡査と兵士とが続いてるらしく思えた。

橋の上で巡査と兵士等が何か相談をしていた。すると三人の騎馬の兵士が巡査等と協力して、電車通りを松住町の方へ群集を遂込み初めた。人々はなだれをうって退いていった。然しそれは後方の人に支え止められて遅々たるものだった。兵士等は馬の頭を人々の鼻先につきつけて、片端から一人残らず押し退けようとした。河岸に並んだ小屋の前に荒い石が積んであった。私はその石の上に上って小屋の戸口に身を避けた。大勢の者が其処に集っていた。兵士等はその方へやって来た。馬の頭をつきつけられて急いで身をかわすはずみに、石の上に転んだ者が一人居た。五十位の老人だった。立ちかけて彼はまたよろめいた。そして着物の裾をまくってみた。向う脛に擦傷がついて血が流れていた。それを見ると兵士等は向うへ行ってしまった。大勢の者がまた集って来た。

田舎者らしい老人は眼を瞬きながら地面に屈んで、懐から穢い手拭を出して傷所を結えた。それから周囲の者をじろりと見上げたが、手の甲で鼻を一つすすり上げて、そのまま松住町の方へ去って行った。