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ろうぎしょう

老妓抄

岡本 かの子

「中央公論」1938(昭和13)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,601 字 · 31 页

青空文庫

だから、ゆっくり構えて、まあ、好きなら麦とろでも食べて、運の籤の性質をよく見定めなさいというのさ。幸い体がいいからね。根気も続きそうだ」

車が迎えに来て、老妓は出て行った。

柚木はその晩ふらふらと旅に出た。

老妓の意志はかなり判って来た。それは彼女に出来なかったことを自分にさせようとしているのだ。しかし、彼女が彼女に出来なくて自分にさせようとしていることなぞは、彼女とて自分とて、またいかに運の籤のよきものを抽いた人間とて、現実では出来ない相談のものなのではあるまいか。現実というものは、切れ端は与えるが、全部はいつも眼の前にちらつかせて次々と人間を釣って行くものではなかろうか。

自分はいつでも、そのことについては諦めることが出来る。しかし彼女は諦めということを知らない。その点彼女に不敏なところがあるようだ。だがある場合には不敏なものの方に強味がある。

たいへんな老女がいたものだ、と柚木は驚いた。何だか甲羅を経て化けかかっているようにも思われた。悲壮な感じにも衝たれたが、また、自分が無謀なその企てに捲き込まれる嫌な気持ちもあった。出来ることなら老女が自分を乗せかけている果しも知らぬエスカレーターから免れて、つんもりした手製の羽根蒲団のような生活の中に潜り込み度いものだと思った。