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ろうぎしょう
老妓抄
岡本 かの子
「中央公論」1938(昭和13)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,601 字 · 31 页
彼はそういう考えを裁くために、東京から汽車で二時間ほどで行ける海岸の旅館へ来た。そこは蒔田の兄が経営している旅館で、蒔田に頼まれて電気装置を見廻りに来てやったことがある。広い海を控え雲の往来の絶え間ない山があった。こういう自然の間に静思して考えを纏めようということなど、彼には今までについぞなかったことだ。
体のよいためか、ここへ来ると、新鮮な魚はうまく、潮を浴びることは快かった。しきりに哄笑が内部から湧き上って来た。
第一にそういう無限な憧憬にひかれている老女がそれを意識しないで、刻々のちまぢました生活をしているのがおかしかった。それからある種の動物は、ただその周囲の地上に圏の筋をひかれただけで、それを越し得ないというそれのように、柚木はここへ来ても老妓の雰囲気から脱し得られない自分がおかしかった。その中に籠められているときは重苦しく退屈だが、離れるとなると寂しくなる。それ故に、自然と探し出して貰い度い底心の上に、判り易い旅先を選んで脱走の形式を採っている自分の現状がおかしかった。
みち子との関係もおかしかった。何が何やら判らないで、一度稲妻のように掠れ合った。