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おうがいのけんこうとし
耄碌寸前
森 於菟
森於菟『耄碌寸前』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鴎外の健康と死、観潮楼始末記、解剖随筆抄、魂魄分離、死体置場への招待、なきがら陳情。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 43,925 字 · 89 页
しかし今度私が父に関する思い出の文章を集めて書肆に托する機会に臨み、観潮楼を弔う文のないのは何か心にすまぬため、しいて筆をとったのである。
父は初め、明治二十四年十二月団子坂上の見晴しのいい地所を求めて翌年一月末千駄木五十七番地の仮寓から移転し、別に千住に橘井堂医院という名で開業していた祖父森静男、祖母峰子、曾祖母清をも合して、島根県津和野町を出てから始めて一家が共に住むことを得たのである。なお父がこれより約二年前千住にいたころ、その弟妹もすべてそこに住んだが、父のすぐの弟の叔父篤次郎は、大学医科を出て結婚独立し、妹喜美子は小金井家に嫁し、末弟の叔父潤三郎のみは父と行動をともにしていた。またこの間父の結婚により生れた私は父母の破婚のため、里親に養われたが観潮楼の成った翌年父の家に帰った。
この土地は根津権現の裏門から北に向う狭い道で団子坂上に出る直前の所で、東側は崖になって見晴しがいい。根津に近い方は土地がひくく道の西側は大きい邸の裏手に面し、当時昼なお暗く藪下道といわれていたが、団子坂上に至る前はしばらく上り坂になってその先はとくに景勝の地を占めているのである。