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みみこうすい
耳香水
大倉 燁子
「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,465 字 · 29 页
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張氏は耳香水を指先でひねくり廻したり、香を嗅いだりして珍らしそうに眺めていましたが、
『帳場の前をすうッと通って行く時、いつもこの香がぷんとするんだ。これやあの十三号のお客さんの匂だよ』
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『お客さんッて? 男? 女?』
『女ですが――』と妻君は夫の顔色を見ながら、言葉尻を濁してしまいましたが、張氏はその後を引き取って、無造作に云ってのけるのでした。
『あの十三号はね、女給さんが逢いびきの場所に使ってたんですよ。金離れがよくって、一ヶ月前納で、二年間も、ただの一度だって滞らせた事はないんです。きちんきちんと払ってくれるんですからね。ホテルじゃ大切なお客さんだったんですけれど――。とうとう失敗っちゃった。惜しい事をしちゃいましたよ。もう来ないかも知れないなあ』
張氏は半分独言のように、いかにも残念そうに申します。妻君はいまいましそうに夫を見て、
『だから、云わない事っちゃあないんだわ。また貸しなんか止せばいいのに――。貴方は余り慾張り過ぎるから、こんな事になっちまうんだわ』
『だッてお前、二年間もただの一度だって二日続けてやって来た例はなかったんだもの。昨夜来たばかりだからなあ。