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はだいろのつき

肌色の月

久生 十蘭

「婦人公論」中央公論社、1957(昭和32)年4~8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 50,706 字 · 101 页

青空文庫

こんな男とやりあう気はない。久美子は水をあおりながら横に逃げた。相当、ひき離したと思っていたのに、隆はすぐ後へ来ている。ゴムの鰭をつけているせいか、意外に早いのだ。反転して上に逃げる。間もなく水面へ出ようというとき、石倉の身体がまともに落ちかかってきた。

「ああ、やられる」

隆が右足にしがみつく。石倉の腕が咽喉輪を攻める……胃に水が流れこみ、肺の中が水でいっぱいになる。久美子は空しい抵抗をつづけながら、だんだん深く沈む。水明りが薄れ、眼の前が真っ暗になった。

久美子は霞みかける意識の中で敏感すぎたせいで殺されるのだと、はっきりと覚った。

三時近くになって、本庁の加藤主任のパッカードがロッジの前庭に走りこんできた。そのうしろから県警の連絡員が乗ったジープがついてきた。

加藤組の私服たちはジリジリしながら主任の来るのを待っていたらしい。ガレージの前で同僚と立話をしていた木村という部長刑事は主任の車を見るなり、あたふたとドアを開けに行った。

「部屋長さん、お待ちしていました。どこにいらしたんです」

「県警本部へ連絡に行っていた」

加藤主任はすらりと車からおりると、ガレージの前にいる年配の私服に声をかけた。