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はだいろのつき
肌色の月
久生 十蘭
「婦人公論」中央公論社、1957(昭和32)年4~8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 50,706 字 · 101 页
「和歌山県と奈良県の癌死亡者は人口百万人にたいして千人以上で、比率の大きなことでは世界的に有名なんですってね……先生、あたし和歌山なんです」
内科の主任は虚を衝かれたような気むずかしい顔になった。
「家族的黄疸とでもいうのか、一家の中でつぎつぎに黄疸にかかる特異な体質がある。赤血球の構成が病的で、すぐ壊れるようになっているので黄疸にかかりやすいのだが、この型の黄疸は肝臓機能とは関係がない」
「そういう体は遺伝するんでしょうか」
「遺伝するだろうと考えられている」
これではまるで告白しているようなものじゃないか。癌研へ紹介する必要のないほど決定的な症状になっているのだと久美子は察した。
未だかつて死体があがったためしがないという深い吸込孔のある湖水がいくつかある。死んだあとで死体をいじりまわされるのが嫌なら、そういう湖でやるほうがいい。万一、死体が浮きあがっても、行路病者の扱いで土地の市役所の埋葬課の手で無縁墓地に埋められるのなら、我慢できないこともない。宇野久美子から宇野久美子という商標を剥ぎとってどこの誰ともわからない人間をつくるぐらいのことは、やればやれる。