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はだいろのつき

肌色の月

久生 十蘭

「婦人公論」中央公論社、1957(昭和32)年4~8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 50,706 字 · 101 页

青空文庫

湖はどこにしようかと迷っていたが、ある日、駅の観光ポスターの「夢の湖、楽しい湖へ」といううたい文句がひどく気に入って、伊豆の奥にあるその湖にきめた。

人間がましい恰好で、出窓の敷居に腰をかけて煙草を喫ったりしているが、実は人間の影のようなものにすぎない。プランどおりに事が運べば、明日中か遅くとも明後日の朝までには宇野久美子という存在は完全にこの世から消えてしまう。この演出は成功するだろうという確信があった。

久美子は和歌山までの切符を買って、二十一時五十分の大阪行に乗った。

網棚へ小道具の入ったスーツ・ケースを載せると、灰銀のフラノのワンピースに緋裏のついた黒のモヘアのストールという、どこかのファッション・モデルのような恰好で車室を流して歩き、知った顔がないかと物色していたが、三つ目の車でロケハンにでも行くらしい楠田という助監督の一行を見つけた。

「楠田さん」

「おお、お久美さんじゃないか。すかっとした恰好で、どこへ行く」

「郷里へ帰るの、和歌山へ……親孝行をしに」

「なんだかわかったもんじゃないな。キョロキョロして、誰をさがしているんだ」

「誰か乗っていないかと思ってさがしていたの」