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はだいろのつき

肌色の月

久生 十蘭

「婦人公論」中央公論社、1957(昭和32)年4~8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 50,706 字 · 101 页

青空文庫

宇野さん、すまないが、警察の連中を呼んで来てくれないかね。その辺に張込んでいるんだろうから」

「警察のひとはみなひきあげたふうよ……連絡係の警官が、明日の朝、八時ごろ、見にくるといっていたけど」

大池は気落ちしたように、がっくりと首をおとした。

「私の冠状動脈は紙のように薄くなっている。こんど発作をおこしたらもう助からない……明日の朝まで十二時間……それまで保合ってくれるかどうか、辛い話だよ」

大池は自首することにきめたらしい。すこしも早く警察と連絡をつけたいふうだが、湖水の近くで電話のあるところは、キャンプ村の管理事務所か伊東ゴルフ場のクラブ・ハウスだけ。どちらも二キロ以上あって、いまの久美子の健康状態では、とてもそこまで出掛けて行くことは出来ない。

久美子は落着かなくなって、玄関のほうへ行った。子供達でも通ったらと、脇窓のそばで聞耳をたてていたが、対岸のキャンプ村では、みなテントに寝に入ったとみえ、笑い声ひとつ聞えない。久美子はあきらめ、脇窓のカーテンをひいて、大池のそばに戻った。大池は自分だけの思いに沈みこんでいるふうで、鬱々と眼をとじていた。