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かんぞうせんせい

肝臓先生

坂口 安吾

「文学界 第四巻第一号」1950(昭和25)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,194 字 · 46 页

青空文庫

どうやら、君の歩く足が、とみに生気を失ったようだが」

と、彼は私を慰めて、

「せっかく意気ごんで来てくれたのに、夢の一日は煙と消えて、こんなことを頼むのは恐縮だが、君にひとつ尽力してもらいたいことがある」

「なんだい」

「詩をつくってもらいたい」

私は返事の代りにふきだしてしまった。生れて以来、一度や二度は詩をつくったことがないでもないが、散文を書きなれた私には、圧縮された微妙な語感はすでに無縁で、語にとらわれると、物自体を失う。物自体に即することが散文の本質で、語に焦点をおくことを本質的に嫌わねばならないのである。

私がふきだしたのを見て、友人は気分を損ねたようである。

「まア、いゝさ。今に、わかるだろうよ」

森の魔女が咒いをかけるような穏やかならぬ文句をのべたてて、

「君に見せたいものがある」

彼は私をアトリエへ案内した。アトリエのマンナカに、なんとも異様な大きな石が、ツヤツヤみがきこんである。

「君に見てもらいたいのは、この石像だが」

「石像?」

「ウン」

「この石でつくるのかい」

「これが完成した石像なんだよ」

と、彼は私をあわれみの目で見すくめた。

詩の仇を石でうつとは不届き千万な。