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かんぞうせんせい

肝臓先生

坂口 安吾

「文学界 第四巻第一号」1950(昭和25)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,194 字 · 46 页

青空文庫

敵機がこれを軍事的な何物かと誤認することは当然だった。

私は茫然として為す術を失い、ただ先生の姿を待って海上に漂うのみであったが、やがて、夕頃、警報も解除となり、救助艇に助けあげられた。娘は腕に負傷していたが、ケナゲな娘で、よく最後まで、私とともにがんばってくれた。

人々に助けられても、娘はうつむいているのみで一言も喋らなかったが、自分のために先生を殺したことの自責に、あらゆる言葉を失っていたのであった。

★

こうして肝臓先生は相模湾の底深く無と帰してしまったのだ。

私は烏賊虎さんから先生の生涯の事蹟をきき終ると、感無量であった。このような仁者を、このような粉骨砕身の騎士を、業半ばにして海底のモズクと化した悲しさよ。しかし、また、なんたる壮烈な最期よ。

私は、今見下している南海の夏の太陽のギラギラした海に、無と帰した先生の何かが、たとえば放射能のように残り、漂っていると思うと、そのなつかしさに、たまらなくなるのであった。

私は腸からほとばしる涙を感ぜざるを得なかった。そして私は、私の無力を知りながら、この偉大な先生のために碑銘を書きしるすことの光栄に感奮し、筆も折れよと握りしめて、そして書いた。