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のうめんのひみつ
能面の秘密
「小説新潮 第九巻第三号」1955(昭和30)年2月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,440 字 · 35 页
もちろんどこの女中もそれがキマリになっているから案内に立とうとする者もいなくなっていた。乃田家でもそうだ。壁に手さぐりで進むから跫音もなく唐紙をあける。すると奥の部屋から奥さんの声で、
「オツネサンかい」
「そうです」
「ちょっとそこで待っててね」
「ハイ」
誰か人がいるらしい。奥さんはあまり人にきこえないように声を低くしかし力をこめ、
「あなたのあつかましさにはもう我慢できなくなりました。今までに一千万円はゆすっているのですよ。私ももう六十七にもなりましたから名誉ぐらいどうなってもかまいません。もう絶対にお金はあげませんから私の秘密をふれまわったがいいでしょう。第一、窓の外から夜中に戸を叩いてゆするなぞとは何事ですか。さっさと行きなさい」
「あとで後悔しますよ」
窓の外でふくみ笑いしてこう捨てゼリフを云う男の声がきこえた。奥さんが窓の戸をしめたので男は立ち去ったらしい。
――大川さんではないようだ、とオツネは思った。彼は熟睡しているし、男の声は低くてよくも聞きとれないぐらいだったが、大川の声とは違っていたようだ。来客は一人の様子であったが、この邸内にいる他の男と云えば、それは息子の浩之介か庭番の爺やだけだ。