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のうめんのひみつ

能面の秘密

坂口 安吾

「小説新潮 第九巻第三号」1955(昭和30)年2月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,440 字 · 35 页

青空文庫

浩之介は南方の戦場から足に負傷して戻ってきてビッコであった。この二人にはオツネはほとんどナジミがなかった。奥さんはオツネを奥の部屋へよびいれて、

「とんだところを聞かれましたね。このことはくれぐれも人に話してはいけませんよ」

「ハイ。決して云いません」

「大川さんはおやすみですか」

「ハイ。高イビキでおやすみでした」

「そう」

それからオツネは奥さんをもんで出たのは十一時半ごろであった。いつもならその時刻だとまた行きつけの旅館へ顔を出してみるところだが、この日は大川をもんで疲れたので師匠の家へ戻って、

「今夜の乃田さんは鬼女の面の旦那だからとても疲れたんです。やすませて下さい」

客の席ではさすがにこんな話まではしないのだが、師匠の家ではずいぶんひどい話もうちあけて茶のみ話にしあっている。そこでこう云って休ませてもらい、疲れた晩の例によって五勺ほどの酒をのみ、

「乃田の奥さんは誰かにゆすられているんだよ。もう一千万円もゆすられたらしいよ。鬼女の面の旦那じゃないけどね」

と今しがた人に云ってくれるなと頼まれたばかりのことまでお喋りしてしまった。そして五勺の酒によい気持になってグッスリねたから、オツネはその晩の火事を知らなかった。