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おきつやごえもんのいしょ
興津弥五右衛門の遺書
「中央公論」1912(大正元)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,046 字 · 14 页
品を求むる外他事なし、これが主命なれば、身命に懸けても果さでは相成らず、貴殿が香木に大金を出す事不相応なりと思され候は、その道の御心得なき故、一徹に左様思わるるならんと申候。横田聞きも果てず、いかにも某は茶事の心得なし、一徹なる武辺者なり、諸芸に堪能なるお手前の表芸が見たしと申すや否や、つと立ち上がり、脇差を抜きて投げつけ候。某は身をかわして避け、刀は違棚の下なる刀掛に掛けありし故、飛びしざりて刀を取り抜き合せ、ただ一打に横田を討ち果たし候。
かくて某は即時に伽羅の本木を買い取り、仲津へ持ち帰り候。伊達家の役人は是非なく末木を買い取り、仙台へ持ち帰り候。某は香木を三斎公に参らせ、さて御願い申候は、主命大切と心得候ためとは申ながら、御役に立つべき侍一人討ち果たし候段、恐れ入り候えば、切腹仰附けられたくと申候。三斎公聞召され、某に仰せられ候はその方が申条一々もっとも至極せり、たとい香木は貴からずとも、この方が求め参れと申しつけたる珍品に相違なければ大切と心得候事当然なり、総て功利の念を以て物を視候わば、世の中に尊き物は無くなるべし、ましてやその方が持ち帰り候伽羅は早速焚き試み候に、希代の名木なれば「聞く度に珍らしければ郭公いつも初音の心地こそすれ」