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ほどう

舗道

宮本 百合子

「婦人之友」1932(昭和7)年1~4月号(著者検挙のため未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,745 字 · 70 页

青空文庫

「私が入社するとき、人事課の細谷が真先に『あなたの御両親は御健在ですか』ってきいたことよ。父はいませんて云ったら、何病で死なれましたかだって。……私が病気んでもなれば、そりゃ遺伝だって片づけられちゃうにきまってるわ」

「――何だったの? お父さん」

クリーム色の帯あげをしめなおしながら、サワ子が子供っぽく訊いた。

「船長だったのよ。南洋航路で船が沈没しちまったんです」

「アラ……。じゃそんなもの遺伝しやしないじゃないの」

「きまってるわ。だけどね、そんなことだって会社は口実にしようと思えばするってことなのよ」

洗面所の窓から、宏壮な××○○会社の建物の間にはさまれたコンクリートの内庭が見下せた。一台の真新しい赤塗りの重油運搬用トラックが真昼の日を浴びそこに来て止っている。無帽子の社員が三人ポケットへ手を突っこんで、一人の男が何か説明しているのを聞いている。

和田れい子が、窓から首をひっこめながら、

「はる子さん、ほんとうに気の毒ね。私女としてつくづく同情しちゃうワ。あのひと、とても無理してたからとうとうこんなことになっちゃったのよ」

「――旦那さんがあるんでしょう?」