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まいひめ

舞姫

森 鴎外

「國民之友第六拾九號」民友社、1890(明治23)年1月3日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,190 字 · 33 页

青空文庫

意を決して断てと。これその言のおおむねなりき。

大洋に舵を失いしふな人が、遥かなる山を望むごときは、相沢が余に示したる前途の方鍼なり。されどこの山はなお重霧の間に在りて、いつ往きつかんも、否、果たして往きつきぬとも、わが中心に満足を与えんも定かならず。貧しきが中にも楽しきはいまの生活、棄てがたきはエリスが愛。わが弱き心には思い定めんよしなかりしが、しばらく友の言に従いて、この情縁を断たんと約しき。余は守るところを失わじと思いて、おのれに敵するものには抗抵すれども、友に対して否とはえ対えぬが常なり。

別れて出づれば風面を撲てり。二重の玻璃窓をきびしく鎖して、大いなる陶炉に火を焚きたる「ホテル」の食堂を出でしなれば、薄き外套をとおる午後四時の寒さはことさらに堪えがたく、膚粟立つとともに、余は心の中に一種の寒さを覚えき。

翻訳は一夜になし果てつ。「カイゼルホオフ」へ通うことはこれよりようやく繁くなりもて行くほどに、初めは伯の言葉も用事のみなりしが、後には近ごろ故郷にてありしことなどを挙げて余が意見を問い、折に触れては道中にて人々の失錯ありしことどもを告げて打ち笑いたまいき。