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まいひめ
舞姫
「國民之友第六拾九號」民友社、1890(明治23)年1月3日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,190 字 · 33 页
一月ばかり過ぎて、ある日伯は突然われに向かいて、「余はあす、魯西亜に向かいて出発すべし。随いて来べきか」と問う。余は数日間、かの公務にいとまなき相沢を見ざりしかば、この問いは不意に余を驚かしつ。「いかで命に従わざらむ」余はわが恥を表わさん。この答はいち早く決断して言いしにあらず。余はおのれが信じて頼む心を生じたる人に、卒然ものを問われたるときは、咄嗟の間、その答の範囲をよくも量らず、直ちにうべなうことあり。さてうべないし上にて、その為しがたきに心づきても、強いて当時の心虚ろなりしをおおい隠し、耐忍してこれを実行することしばしばなり。
この日は翻訳の代に、旅費さえ添えて賜りしを持て帰りて、翻訳の代をばエリスに預けつ。これにて魯西亜より帰り来んまでの費えをば支えつべし。彼は医者に見せしに常ならぬ身なりという。貧血の性なりしゆえ、幾月か心づかでありけん。座頭よりは休むことのあまりに久しければ籍を除きぬと言いおこせつ。まだ一月ばかりなるに、かく厳しきは故あればなるべし。旅立ちの事にはいたく心を悩ますとも見えず。偽りなきわが心を厚く信じたれば。
鉄路にては遠くもあらぬ旅なれば、用意とてもなし。