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まいひめ
舞姫
「國民之友第六拾九號」民友社、1890(明治23)年1月3日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,190 字 · 33 页
いまさらおもえば、余が軽率にも彼に向かいてエリスとの関係を絶たんといいしを、早く大臣に告げやしけん。
ああ、独逸に来し初めに、自らわが本領を悟りきと思いて、また器械的人物とはならじと誓いしが、こは足を縛して放たれし鳥のしばし羽を動かして自由を得たりと誇りしにはあらずや。足の糸は解くに由なし。さきにこれを繰りしは、わが某省の官長にて、今はこの糸、あなあわれ、天方伯の手中に在り。余が大臣の一行とともにベルリンに帰りしは、あたかもこれ新年の旦なりき。停車場に別れを告げて、わが家をさして車を駆りつ。ここにてはいまも除夜に眠らず、元旦に眠るが習いなれば、万戸寂然たり。寒さは強く、路上の雪は稜角ある氷片となりて、晴れたる日に映じ、きらきらと輝けり。車はクロステル街に曲がりて、家の入口に駐まりぬ。この時窓を開く音せしが、車よりは見えず。馭丁に「カバン」持たせて梯を登らんとするほどに、エリスの梯を駈け下るに逢いぬ。彼が一声叫びてわが頸を抱きしを見て馭丁は呆れたる面もちにて、なにやらん髭のうちにて言いしが聞こえず。
「よくぞ帰り来たまいし。帰り来たまわずばわが命は絶えなんを」