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まいひめ
舞姫
「國民之友第六拾九號」民友社、1890(明治23)年1月3日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,190 字 · 33 页
わが心はこの時までも定まらず、故郷を憶う念と栄達を求むる心とは、時として愛情を圧せんとせしが、ただこの一刹那、低徊踟の思いは去りて、余は彼を抱き、彼の頭はわが肩に倚りて、彼が喜びの涙ははらはらと肩の上に落ちぬ。
「幾階か持ちて行くべき」と鑼のごとく叫びし馭丁は、いち早く登りて梯の上に立てり。
戸の外に出迎えしエリスが母に、馭丁をねぎらいたまえと銀貨をわたして、余は手を取りて引くエリスに伴われ、急ぎて室に入りぬ。一瞥して余は驚きぬ、机の上には白き木綿、白き「レエス」などを堆く積み上げたれば。
エリスはうち笑みつつこれを指さして、「なにとか見たもう、この心がまえを」といいつつ一つの木綿ぎれを取上ぐるを見れば襁褓なりき。「わが心の楽しさを思いたまえ。産まれん子は君に似て黒き瞳子をや持ちたらん。この瞳子。ああ、夢にのみ見しは君が黒き瞳子なり。産まれたらん日には君が正しき心にて、よもあだし名をばなのらせたまわじ」彼は頭を垂れたり。「穉しと笑いたまわんが、寺に入らん日はいかに嬉しからまし」見上げたる目には涙満ちたり。
二、三日の間は大臣をも、たびの疲れやおわさんとてあえて訪らわず、家にのみ籠りおりしが、ある日の夕暮れ使いして招かれぬ。