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まいひめ
舞姫
「國民之友第六拾九號」民友社、1890(明治23)年1月3日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,190 字 · 33 页
往きてみれば待遇ことにめでたく、魯西亜行の労を問い慰めてのち、われとともに東にかえる心なきか、君が学問こそわが測り知るところならね、語学のみにて世の用には足りなん、滞留のあまりに久しければ、さまざまの係累もやあらんと、相沢に問いしに、さることなしと聞きて落ちいたりと宣う。その気色いなむべくもあらず。あなやと思いしが、さすがに相沢の言を偽りなりともいいがたきに、もしこの手にしも縋らずば、本国をも失い、名誉を挽きかえさん道をも絶ち、身はこの広漠たる欧州大都の人の海に葬られんかと思う念、心頭を衝いて起これり。ああ、何らの特操なき心ぞ、「承り侍り」と応えたるは。
黒がねの額はありとも、帰りてエリスになにとかいわん。「ホテル」を出でしときのわが心の錯乱は、たとえんに物なかりき。余は道の東西をも分かず、思いに沈みて行くほどに、往きあう馬車の馭丁に幾度か叱せられ、驚きて飛びのきつ。しばらくしてふとあたりを見れば、獣苑の傍らに出でたり。倒るるごとくに路の辺の榻に倚りて、灼くがごとく熱し、椎にて打たるるごとく響く頭を榻背に持たせ、死したるごときさまにて幾時をか過しけん。