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ふねでついたまち

船でついた町

小川 未明

「国民新聞」1930(昭和5)年1月1日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 2,924 字 · 6 页

青空文庫

すると、おじいさんは笑って、

「いいえ、まだ、この土地が開けないからです。それに、そう欲の深いものがいないからです。だんだんこの港に、船がたくさんはいってきて、方々の人々が出入りするようになりますと、町もにぎやかになりますかわり、暮らしづらくなりますよ。なかには、そうなるのを望むものもありますが、私たちは、かくべつ繁昌しなくとも、いつまでも平和に暮らしてゆくのを望んでいます。」と、答えました。

金持ちは、不思議に思いました。

「繁昌すると、平和にならないというのは、どういうわけですか?」と、またたずねました。老人はあいかわらず笑って、

「同じいような店が、いくつもできるようになります。そして、それらが、みんなよくやっていくには、たがいに競争しなければなりません。いまは、日が暮れれば、じきに休みますが、そうなれば、夜もおそくまで働いたり、起きていなければなりません。」といいました。

彼は、なるほど、それにちがいないと思いました。

「いつまでも、静かな平和な町であれ。」と、金持ちは、心の中で祈って、おじいさんと別れて、あちらへ歩いてゆきました。小さな町がつきると、丘がありました。