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えんしょ
艶書
山本 周五郎
「小説倶楽部」桃園書房、1954(昭和29)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,027 字 · 50 页
泥酔して、芸妓に支えられながら、手洗いにでもゆくようすであったが、出三郎をみつけるとあいそよく笑いながら、ひょろひょろと寄って来て、肩を叩いた。
「これは驚いた、こんなところであんたに会おうとは思いがけない」忠也はなれなれと云った、「どうです、私の座敷へ来ませんか、いっしょにひとつ盛大に」
出三郎はつれがあるからと断わった。忠也は醜い顔になっていた、相貌が変わったわけではなく、ぜんたいの印象がよごれて、腐ったにおいでも発散するような感じだった。
「あんたは堅いんだってな」と忠也はあいそ笑いをした、「あんたのことは七重から聞いたよ、まじめで堅い人物だって、こんなところで会ったなんて云っても信用しないだろう」
出三郎は黙っていた。
「あれも堅い女だ」忠也は続けた、「いつまでも堅くてまじめで、おまけに病気ばかりしている、丈夫そうな躯をしているくせにね」
「病気をなすってるんですって」
「秋になったら林田の温泉へでもやってやろうと思うんですがね、躯の弱い女房なんて持つもんじゃない、本当ですよ、子供も生めないとなると問題ですからね」
忠也は芸妓の肩を抱いたまま、ひょろひょろと廊下の向こうへ去っていった。