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えんしょ

艶書

山本 周五郎

「小説倶楽部」桃園書房、1954(昭和29)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,027 字 · 50 页

青空文庫

周囲は樹の多い丘や草原がひらけてい、松屋川の流れもようやく広く、眺望もよし閑静なことでも知られていた。

「今日はまじめな話しがあるんだ」

盃が少し進むと、半兵衛はこう云ってこちらを見た。彼は(無役になってから)かなり肥えて、頬もまるくなり、瞼がはれぼったくなっている。しかしそのはれぼったい瞼の下の双眸は、さえた、するどい光りを放っていた。――日のくれるのが早い季節で、あたりはすでに黄昏の色が濃くなり、松林のすぐ向こうに見える川の水面だけが、いかにも秋らしく、鉛色に寒ざむと光っていた。

出三郎は次の言葉を待った。

「どうやら時節がやって来た」と半兵衛が云った、「時日はまだはっきりしないが、おそくとも殿が出府されるまえに定るだろう」

「つまり城代家老就任ですね」

「そして岸島出三郎は郡奉行だ」

「――なんですって」

「出さんが郡奉行だというのさ」

「冗談じゃない」出三郎はむっとした、「人をからかわないでください」

「まじめな話だよ、まあ一杯」

半兵衛は盃をさした。そのとき渡り廊下を渡って、二人の女中が酒肴を運んで来、一人が行燈に火を入れた。

「障子を閉めていってくれ」